キーワードは「食」 オンラインシンポジウムで学際的研究の魅力と展望を紹介

「食」に関する学際的研究を紹介するシンポジウムが令和3年3月22日、オンラインで開催され、全国から高校生や研究者など約80名が参加しました。

シンポジウムは4部構成で、農学、工学、教育学の観点から、「食」をグローカルな視点で研究することの魅力と展望について、山形大学の研究者が解説しました。

第1部の農学の視点では、村山秀樹教授(農学部長)、及川彰教授(農学部)が農産物の香りや水分に着目し、成分抽出やドライフーズの性能分析に関する研究を紹介。2日目のカレーはなぜおいしく感じるのか。ただちゃ豆はなぜおいしいのか。及川教授は、食品に含まれる成分の一斉解析の手法「フードメタボロミクス」を用い、調理方法や保存方法による食品中に含まれる成分の変動を解析し、味の違いの視覚化を試みます。フードメタボロミクスによる農産物のブランド化、オーダーメイドな食事の組み合わせ提案など、食品産業への応用が期待されます。

「食品メタボロミクス~我々は何を食べているのか~」及川彰教授

村山教授は、フレーバーに着目した学際研究を解説。セイヨウナシの品種のひとつ「ラ・フランス」は、山形県のブランド作物として知られています。この果物は、世界でも日本でしか栽培されておらず、また、国内で栽培されるセイヨウナシの3分の2を占めます。このラ・フランス、食べ頃の判断が難しい。果実は樹上で熟成しないため、収穫後に熟成期間を要しますが、見た目では食べ頃の判断が難しく、触感などの感覚に頼るしかない。村山教授は、ラ・フランスの香りの成分のうち、食べ頃になるとエステル類が増加することに着目し、エステルを検知して表示する「食べ頃シール」の開発を工学部との学際研究で実現することを目指します。

「フレーバーの観点から食品の美味しさを評価する」村山秀樹教授

第2部は教育学の視点から、大森桂教授(地域教育文化学部長)が、食育を通してフードリテラシーを育む意義を説明。大森教授は、「食についての知識を深め、理解し、判断する力」としての「フードリテラシー」について「健康や教育を考えるうえでキーとなる概念」であると説明し、日本では学校給食や調理実習がその教育と定着に大きな役割を果たしているとする一方、行動科学的な視点を取り入れていく必要性を指摘します。「味わうことは、誰にも代わってもらえない。自分の感覚に向き合い、表現する」(ジャック・ピュイゼ氏)。この教育実践を、フランスパリ市内の幼稚園の味覚教育や、自身の山形大学附属幼稚園でのフードリテラシー教育を例に解説しました。

「フードリテラシー研究の国際的動向とフレーバー教育の可能性」大森桂教授

第3部。工学の視点からは、西岡昭博教授(工学部)、東原知哉教授(工学部)、香田智則准教授(工学部)が、アルファ化米粉の研究や農産物の鮮度を保持する包装の開発を解説。工学部と食品研究の意外な関係が紹介されます。西岡教授は、プラスチック材料の研究者であり、米粉100%パンの先駆者でもあります。地元企業からの技術相談で米粉100%のパン作りに着手した西岡教授。当時、米粉のみではパンを作ることはできないというのが常識のなか、プラスチック研究の発想の転換により米粉100%のパンを実現します。プラスチックには粘土の性質とゴムの性質を併せ持つ「粘弾性」があることが知られていますが、西岡教授はパン生地の粘弾性に着目。米粉に粘弾性をもたせるべく「アルファ化米粉」を開発し、従来の米粉と配合することにより米粉だけの生地を膨らませることに成功します。アルファ化米粉のレシピを紹介した香田准教授は「米粉は小麦粉の代用にとどまらない。レシピコンテストでは米粉の特徴を活かしたレシピが考案されている」と述べ、米粉の可能性を示唆しました。

「逆転の発想により実現した米粉100%パンの開発」西岡昭博教授

「アルファ化米粉を使ったレシピの開発と普及」香田智則准教授

東原教授の新しい鮮度保持パッケージ開発は、農業県山形のブランド作物の流通拡大を可能とする試みです。山形県のブランド作物のフラッグシップともいえる「さくらんぼ」は、産出額が年々上昇しており、経済戦略上も重要な作物といえます。しかし一方で、品質管理の面で輸送のハードルが高く、外国への輸出は東南アジアにとどまり、国内でも遠隔地での取り扱いが少ないのが現状です。東原教授は、継続した輸送試験を通じ、輸送中の温度変化、湿度変化、衝撃の度合いを明らかにし、水分を多く含んだハイドロゲル材料を用いた保冷・保湿・耐衝撃のできる新しい鮮度保持パッケージを開発。講演では、台湾への輸送試験を紹介し、新パッケージの有用性を解説しました。

「青果物の輸送用パッケージおよびフレーバーセンサーの開発に向けて」 東原知哉教授

シンポジウム最後の第4部では、チャットを通じて質疑応答が行われました。活発な意見交換のあと、座長の村山教授は「食をキーに、学部をまたいだ学際的な研究プログラムが動き始めた。次回のシンポジウムでは、会場に皆様をお招きして研究成果を発表できることを期待したい」と会を締めくくりました。

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